気体の状態を決める物理量として圧力、温度、体積がある。
これらの3つの物理量の関係を表したのが状態方程式である。
気体の状態はこの状態方程式に従う。
また、気体の状態が変化する時の法則として熱力学第一法則と熱力学第二法則がある。
熱力学第一法則はエネルギー保存則から理解できるが、熱力学第二法則は高校範囲では証明が難しいので省略した。
本記事では気体の状態変化について紹介する。
状態方程式
ある気体において圧力、体積、絶対温度には以下の関係が成り立つ。
\begin{eqnarray}
pV&=&nRT\\
\\
p&:&圧力\\
V&:&体積\\
n&:&モル数\\
R&:&気体定数\\
T&:&絶対温度
\end{eqnarray}
この方程式を状態方程式と呼ぶ。
状態方程式は単位が[J]であることから、状態方程式は気体の持つエネルギー(後述する内部エネルギー)を\(p,V,T\)で表す事ができることを示している。
また\(n\)が一定の時、状態方程式から以下の関係が成り立つ。
\begin{eqnarray}
\frac{pV}{T}=一定\\
\\
T=一定の時\\
pV=一定\\
\\
p=一定の時\\
\frac{V}{T}=一定
\end{eqnarray}
これらの関係をそれぞれ、ボイル・シャルルの法則、ボイルの法則、シャルルの法則と呼ぶ。
圧力と気体の分子運動の関係
気体は沢山の気体分子で構成されている。
圧力とは、これらの気体分子が衝突して及ぼす力積による物理量である。
以上のように辺が\(l\)の立方体の中に気体分子が存在する時を考える。
この時、1個の分子が壁に当たって弾性衝突すると考える。
この時、1回の壁との衝突によって気体分子が壁に与える力積は以下である。
\begin{eqnarray}
&&2mv_x\\
\\
m&:&気体分子の質量\\
v_x&:&x方向の速度
\end{eqnarray}
また、単位時間あたりに気体分子が壁に衝突する回数は以下である。
\begin{eqnarray}
\frac{v_x}{2l}
\end{eqnarray}
よって、気体分子\(N\)個の単位面積当たりの力(つまり、圧力)は以下になる。
\begin{eqnarray}
p&=&N\cdot2mv_x\cdot\frac{v_x}{2l}\\
\\
&=&\frac{Nmv_x}{l^3}\\
\\
&=&\frac{Nmv_x}{V}
\end{eqnarray}
ここで、速度\(v_x\)を考える。
\(N\)個の気体分子の速度の2乗平均を\(\overline{v^2}\)とすると、以下を満たす。
\begin{eqnarray}
\overline{v^2}=v_x^2+v_y^2+v_z^2
\end{eqnarray}
ここで、\(xyz\)方向に何か特別な力が働いているわけではないので、\(v_x,v_y,v_z\)は等しい事が分かる。
よって、以下を満たす。
\begin{eqnarray}
v_x^2=v_y^2=v_z^2
\end{eqnarray}
よって、\(3v_x^2=\overline{v^2}\)を満たすので、圧力は以下になる。
\begin{eqnarray}
p=\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}
\end{eqnarray}
【力積とは】
分子の運動エネルギーと温度の関係
以下の記事で 物質の温度とは構成している分子の運動エネルギーだと説明した。
では、実際に分子の運動エネルギーと温度の関係はどのようなものなのかを見ていく。
前章の圧力\(p\)の式から、運動エネルギーを表すと以下になる。
\begin{eqnarray}
\frac{1}{2}m\overline{v^2}=\frac{3}{2}\frac{pV}{N}
\end{eqnarray}
ここで、状態方程式を用いると、以下のように運動エネルギーと温度の関係を導くことができる。
\begin{eqnarray}
\frac{1}{2}m\overline{v^2}&=&\frac{3}{2}\underbrace{\frac{n}{N}R}_{=k(ボルツマン定数)}T\\
\\
&=&\frac{3}{2}kT
\end{eqnarray}
よって、物質の温度は分子の運動エネルギーに比例することが分かる。
熱力学第一法則
熱力学第一法則
気体にエネルギー(熱量)を与えた時のエネルギーの内訳について考える。
気体に与えたエネルギーは気体そのものが持つか、気体が外部に仕事をするかである。
エネルギー保存則より、与えたエネルギーが無くなることはない。
よって、以下の等式が成り立つ。
\begin{eqnarray}
Q_{in}&=&ΔU+W_{out}\\
\\
Q_{in}&:&気体に与えたエネルギー\\
ΔU&:&気体の内部エネルギーの変化\\
W_{out}&:&気体が外部にした仕事
\end{eqnarray}
この法則を熱力学第一法則と呼ぶ。
この内部エネルギーの変化\(ΔU\)と気体が外部にする仕事\(W_{out}\)について考える。
内部エネルギー
内部エネルギーとは分子の運動エネルギーの総和と、分子間力によるポテンシャルの総和である。
だが、理想気体では分子間の相互作用は考えない。
よって、内部エネルギーは分子の運動エネルギーの総和と考える。
分子の運動エネルギーの総和は式\(3.1\)から以下になる。
\begin{eqnarray}
U=\underbrace{N}_{分子の個数}\cdot\underbrace{\frac{1}{2}m\overline{v^2}}_{分子1個の運動エネルギー}=\frac{3}{2}nRT
\end{eqnarray}
このように、内部エネルギーが書けるのは単原子分子の場合のみである。
水素のような二原子分子の場合は、平行移動の運動エネルギーの他に回転のエネルギーも考えなくてはならないからである。
よって、内部エネルギーは温度\(T\)の関数であることが分かる。
よって、内部エネルギーの変化は温度の変化となり、以下が成立する。
\begin{eqnarray}
ΔU&=&\frac{3}{2}nRΔT\\
\\
ΔT&:&温度変化
\end{eqnarray}
気体が外部にする仕事
気体が外部に仕事をする場合、体積変化が起こる。
体積が\(ΔV\)だけ変化した時の仕事は以下である。
\begin{eqnarray}
W&=&p(V)ΔV\\
\\
W&:&気体が外部にした仕事\\
p(V)&:&体積Vによる圧力
\end{eqnarray}
この時、\(ΔV\)が微小である時の微小な仕事は以下になる。
\begin{eqnarray}
dW&=&p(V)dV\\
\\
dW&:&dVだけ体積変化した時の仕事
\end{eqnarray}
これを積分すると以下になる。
\begin{eqnarray}
W=\int dW=\int_{V_1}^{V_2}p(V)dV
\end{eqnarray}
よって、気体が外部にした仕事を求めることができた。
ここで、気体が外部にした仕事は\(p-V\)グラフを描いた時のグラフと\(V\)軸の面積に相当する。
【仕事とは】
熱力学第二法則
可逆変化と不可逆変化
ある物質の状態1と2を考える。
1から2へと変化させ、外界になんの変化も残さずに2から1へと状態を戻すことができる変化を可逆変化と呼ぶ。
一方で1から2へと変化させることはできても、2から1へと状態を戻すことができない変化を不可逆変化と呼ぶ。
例)コーヒーの中にミルクを入れた後、ミルクコーヒーからミルクだけを取り出すことはできない。
この不可逆変化のことを熱力学第二法則と呼ぶ。
熱機関の熱効率
熱機関とは、熱エネルギーを別のエネルギーに変換させるもののことを言う。
例)蒸気機関車
この時、熱機関が吸収した熱量と外にする仕事の間には以下の関係がある。
\begin{eqnarray}
e&=&\frac{Q_{in}-W_{out}}{Q_{in}}<1\\
\\
e&:&熱効率
\end{eqnarray}
この不等式の意味を考える。
不等式が成立しない時は\(W_{out}<0\)の時である。
ここで、\(W_{out}<0\)であることは、体積が縮小するということである。
だが、それは熱力学第二法則に反する。
よって、不等式が成立する。